木星
まるで、引力が失われたように、離れていった。
なんて、今まで心地が良かったのだろう。
惜しんでも、離れたくないと泣きじゃくっても、引力が離れた今、私はゆっくりと宇宙の彼方に放り出される。
一人、旅立ちの時が来たのだ。
木星よ、今までありがとう。
あなたの引力は心地よく、私はあなたの周りを自由に廻っていた。
風はたおやかに吹き時折私に手を伸ばす、美しい色で私を癒やし、いつも見ていてくれた。
あなたは優しく、ずっと私の手を離さないでいてくれた。
でも、今、私はあなたの手を離れていく。
それは、私には、どうしようもないことだった。
引力が、離れてしまったのだから。
それは、引力を失った惑星から衛星が離れていくように、宇宙の大きな流れの中、私にはどうしようもないことだった。
彼らには、感情はないだろう。永年一緒にあった星が例え離れようとも、そこに感情はなく、只、大きな流れに従う。
何故、人には感情があるのだろう。
こんなにも愛して、離れるのを惜しむ私がいる。
星が離れていく光景は壮大で、只々、美しい。
私も自分を星だと思おう、
引力を失い、宇宙に旅立つ美しい星だと。
でも、一人ではない。
あなたと私の引力で引き寄せた隕石が、星となって、今、私の周りを廻っている。
私はその小さな2つの星を連れ、宇宙へ旅立つ。